連載テーマ 「需給統制で実現する在庫最適化~SCM視点で考える製造業の在庫改革~」
- 製造業の在庫最適化とは?需要変動に振り回されない需給統制の進め方
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はじめに
「在庫削減活動を続けているのに、在庫金額が下がらない」
「倉庫には製品があふれているのに、必要な製品は欠品している」
製造業の現場では、このように過剰在庫と欠品が同時に発生することがあります。
その原因は、在庫量そのものではなく、需要と供給を調整する仕組みにあるかもしれません。
需要情報の精度や変化を捉えないまま生産計画を立てても、売れる製品と生産する製品のずれは解消できないためです。
本記事では、「需給統制で実現する在庫最適化」の第1回として、製品在庫が増える原因と、SCM、S&OP、生産スケジューラを活用した改善の考え方を解説します。
そして、シリーズ3回を通して、製造業のストック在庫・フロー在庫を以下の3つに分類し、それぞれの発生要因と最適化の考え方を解説します。
第1回:製品在庫 需要変動や需要予測の精度に起因する在庫問題と、その解決策であるSCM・S&OP運用について解説します。
第2回:中間品在庫 工程間で滞留する仕掛品や半製品が発生する原因と、生産管理システムや生産スケジューラによる改善方法を紹介します。
第3回:購入品在庫 調達リスクや発注運用によって膨らむ購入品在庫を、SCM・MRP連携で最適化する方法を解説します。
この記事の要点
- 在庫最適化とは、在庫を一律に減らすことではなく、必要な製品を必要な数量とタイミングで供給できる状態をつくること。
- 過剰在庫と欠品が同時に起きる主な原因は、需要予測、SKU管理、欠品対応、生産ロットの決め方。
- 在庫最適化は、需要計画、在庫計画、供給計画、生産能力の連動が重要。
- SCMは需要・供給・在庫を統制し、生産スケジューラは実現可能な生産計画をつくる役割。
在庫削減を続けても成果が出ない理由
「在庫削減活動を続けているのに成果が出ない」
製造業のお客様とお話しすると、次のようなお悩みをよく耳にします。
- 常に在庫が溢れている
- 一方で欠品も発生する
- 在庫削減活動を続けているが改善しない
これまでの経験上、このような悩みに存在する課題は「在庫そのもの」ではなく、「需要と供給のコントロール方法」にあります。
在庫最適化とは、単純に在庫数量や在庫金額を減らすことではありません。顧客が必要とする製品を、必要な数量とタイミングで供給しながら、余剰在庫や滞留在庫を抑える取り組みです。したがって、在庫削減と供給水準の維持を同時に考える必要があります。
製品在庫は、需要変動や生産・調達リードタイムに備えるためのストック在庫です。一定の在庫を持つこと自体が問題なのではなく、なぜその数量が必要なのかを説明できない状態が問題です。
例えば、営業部門は販売機会を逃さないために多めの需要予測を提出し、製造部門は設備稼働率を高めるためにまとめて生産し、経営部門は在庫金額の削減を求めることがあります。それぞれの判断には合理性がありますが、部門ごとの指標だけを追求すると、全体として過剰在庫が発生します。
この状態で一律の在庫削減目標を設定すると、必要な在庫まで削り、欠品が発生する可能性があります。
その後、欠品を恐れて増産し、再び在庫が増えるという悪循環に陥りかねません。

製品在庫が増える4つの典型的な理由
製品在庫が増える原因は企業ごとに異なりますが、多くの製造業では「需要予測」「SKU管理」「欠品対応」「生産効率」の4点に集約できます。重要なのは、在庫が増えた結果だけでなく、どの意思決定が在庫を生み出したのかを確認することです。
①需要予測(フォーキャスト)と実受注に大きな差がある
営業・担当部門の経験や勘を中心に需要予測を作成している場合、担当者や製品によって予測精度にばらつきが生じます。予測が実需より大きければ過剰在庫となり、小さければ欠品や短納期対応が発生しますので、需要予測の精度が低い状態では、
- 売れない製品を作りすぎる
- 売れる製品が不足する
という状況が常態化します。
ただし、需要予測には必ず誤差が含まれます。予測精度を100%に近づけることだけを目標にするのではなく、誤差が生じたときに販売計画、在庫計画、供給計画を見直せる運用が重要です。
②製品点数(SKU)が多く、全てのSKUを同じ基準で管理している
製品ラインアップの拡充は販売機会を増やす一方、SKUごとに安全在庫や生産ロットを設定する必要があるため、在庫の増加につながります。
特に、売上貢献度や需要特性を考慮せず、すべての製品に同じ在庫日数や欠品許容度を設定すると、回転率の低い製品まで大量の在庫を抱えることになります。
対策として有効なのが、ABC分析とXYZ分析の組み合わせです。ABC分析は売上高や利益などの貢献度で品目を分類する方法であり、XYZ分析は需要の安定性や変動幅で品目を分類する方法です。
- 売上貢献度が高い製品
- 需要が安定している製品
- 需要変動が大きい製品
などを分類し、重点管理品、定量補充品、受注生産候補、統廃合候補など、SKU別の在庫ポリシーを設定する必要があります。
③欠品への対応が過剰生産を招いている
欠品が発生すると、製造部門や生産管理部門は「欠品しないように」という考えから対象製品を多めに生産する傾向があります。
しかし、欠品の原因が一時的な需要増加や在庫配置の偏りである場合、増産だけでは根本的な解決になりません。
欠品時には、需要予測のずれ、受注の集中、生産遅延、在庫精度、拠点間の在庫偏在など、原因を分けて確認する必要があります。原因を特定しないまま生産量を増やすと、次のような問題を発生させます。
- 過剰在庫
- 長期滞留在庫
- 廃棄損失
本来必要なのは増産ではなく、需要・在庫を適切にコントロールする仕組み作りです。
④生産効率を優先し、在庫が増えている
段取り替え時間の削減や設備効率向上を目的として、大ロット生産を行う企業も少なくありません。
しかし、製造効率だけを追求すると、
- 必要以上の製品在庫
- 長期滞留在庫
- 倉庫圧迫
といった問題が発生します。
製造効率と在庫最適化には、一定のトレードオフがあります。判断時には、段取り替えコストだけでなく、在庫保管費、資金負担、品質劣化、陳腐化、廃棄リスクまで含めて評価することが大切です。
需要と供給を統制する在庫最適化の進め方
製品在庫を最適化するためには、需要側と供給側を別々に改善するのではなく、共通の計画と指標でつなぐ必要があります。そのための考え方が、SCMとS&OPによる需給統制です。
SCMとは、需要、調達、生産、在庫、物流など、サプライチェーン全体の情報と業務を連携させる考え方であり、S&OPとは、販売計画と供給計画を、経営目標や収益計画も含めて調整する意思決定プロセスです。
- 需要計画:販売実績、受注、営業情報、市場要因を基に、将来の需要を品目や製品群別に整理します。
- 在庫計画:供給水準、需要変動、補充リードタイムを踏まえて、目標在庫や安全在庫を設定します。
- 供給計画:需要計画と在庫計画を基に、いつ、どの製品を、どれだけ供給するかを決めます。
- 生産能力管理:設備、人員、金型、外注などの制約を確認し、供給計画が実現できるかを検証します。
- 計画差異の管理:計画と実績の差を定期的に確認し、次回の計画や在庫ポリシーに反映します。
運用上の重要点は、需要責任、在庫責任、供給責任を明確にすることです。例えば、需要計画は営業部門、供給計画は生産管理部門、在庫方針は部門横断の会議体で決定するなど、誰が数値を作り、誰が承認し、どの条件で見直すかを定義します。
単に会議を開催するだけではS&OPは機能しません。差異の大きい品目、供給制約のある品目、滞留リスクの高い品目に論点を絞り、意思決定が必要な事項を会議前に可視化することが定着のポイントです。
SCMと生産スケジューラで在庫最適化を進める方法
結論として、SCMシステムと生産スケジューラは代替関係ではなく、役割の異なる仕組みです。SCMシステムは需要・供給・在庫を中長期で調整し、生産スケジューラは設備や人員などの制約を考慮して実行可能な生産順序を作成します。
SCMシステムによる需給統制
製品在庫の最適化には、SCMシステムを活用した需給管理が有効です。
SCMシステムでは、販売実績や受注情報を基に需要計画を作成し、目標在庫、生産能力、調達制約などを考慮して供給計画を立案します。ABC分析やXYZ分析を用いて品目特性を分類し、製品ごとに異なる在庫ポリシーを設定することも可能です。
SCMシステムの価値は、予測計算の自動化だけではありません。複数部門が同じ需要・在庫・供給情報を参照し、計画変更の影響を共通認識として持てる点にあります。
そして、需要責任、在庫責任、供給責任を明確化し、需給計画を統制することで、過剰在庫と欠品の両立解消を目指すことが可能です。
生産スケジューラによる製造統制
生産スケジューラは、設備能力、稼働カレンダー、段取り替え、製造リードタイム、作業者、金型などの制約を考慮し、実現可能な生産計画を作成する仕組みです。
供給計画が適切でも、製造現場で実行できなければ、納期遅延や仕掛品の滞留が発生します。
生産スケジューラによって実行可能性を確認することで、必要以上の先行生産を抑えながら、納期と設備負荷のバランスを調整できます。
一方、システムを導入するだけで在庫が自動的に最適化されるわけではありません。需要予測の更新頻度、受注への切り替え時期、安全在庫の算定条件、計画を固定する期間、例外時の承認ルールなどを定義しなければ、システム上の計画が現場で使われなくなる可能性があります。
在庫最適化を定着させるための実務ポイント
在庫最適化を定着させるには、最初から全品目を対象にするのではなく、対象範囲を絞り、計画と実績の差異を継続的に確認することが重要です。システム選定より先に、現在の意思決定プロセスとデータの状態を確認する必要があります。
- 過剰在庫額、欠品件数、在庫回転率、長期滞留在庫など、改善目的に合った指標を設定する
- 製品群や主要SKUに対象を絞り、需要から生産までの計画プロセスを可視化する
- 需要予測値、受注、生産計画、在庫実績のデータ粒度と更新頻度をそろえる
- 需要責任、在庫責任、供給責任と、計画変更時の承認者を決める
- 予測誤差や供給制約を例外として抽出し、人が判断すべき案件を明確にする
- 計画精度だけでなく、実際の在庫金額や欠品への効果を定期的に評価する
よくある失敗は、高度な需要予測モデルの構築を先行させ、現場で計画値がどのように使われるかを決めていないことです。予測精度が向上しても、営業部門が別の数値を使用したり、製造部門が設備効率を優先して計画以上に生産したりすれば、在庫は改善しません。
まずは重点製品群を対象に、需要計画、在庫計画、供給計画、実行計画を一つのサイクルとして運用し、改善効果を確認しながら対象範囲を広げる進め方が現実的です。
まとめ:製造業の在庫最適化は需給統制から始める
製造業の在庫最適化で重要なのは、在庫数量を一律に減らすことではなく、需要、供給、在庫、生産能力を連動させることです。製品在庫の問題は、在庫管理だけでなく、需要計画や供給計画の問題として捉える必要があります。
需要予測と実受注の差、SKUの増加、欠品後の過剰生産、生産効率を優先した大ロット生産は、いずれも製品在庫を増やす要因です。
これらを改善するには、SCMとS&OPによって部門間の計画を統合し、適切な需要情報を基に生産スケジューラによって実現可能な生産計画へ落とし込むことが求められます。
在庫金額だけを追うのではなく、「どの需要情報に基づき、誰が、どの基準で生産量と在庫量を決めたのか」を確認することが、需要変動に振り回されない在庫マネジメントへの第一歩です。
次回は、中間品在庫を取り上げ、MRPだけでは解決しにくい工程間在庫の問題を、生産管理システムと生産スケジューラの視点から解説します。
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| 筆者 仲 正記 (Naka Masanori) 経歴: トーテックアメニティ株式会社で20年間以上、様々な製造業様へシステム導入を実施してきた。 生産管理システム導入から始まり、生産スケジューラの「シニアAPT認定」を保有して工場計画導入を数多く実施してきた経歴を持つ。 『今後の製造業はSCM業務範囲(需給調整計画)が重要』として、2024年からSCMソリューションも推進している。 |

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